チャーチルの法則 舞の海と週刊金曜日

チャーチルの法則

昔、落合信彦の著書で知った「若者でアカにならないやつはバカだ、だが、いい年をしてまだアカをやっているやつはもっとバカだ」(うろ覚え)という格言の出典と、もしそれが英語なら原文を知りたいと思い、ネットで調べてみることにした。

すると、どうやら

「20歳までに左翼に傾倒しない者は情熱が足りない。20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が足りない。」

というのが一般的らしいのだが、

[Q&A] 「20歳までに左翼に傾倒しない者は…」の原文が知りたい 【OKWave】

言ったのはかの有名なイギリスの元首相、ウィンストン・チャーチルらしく、しかし、どうも原文はニュアンスが多少違うようだ。

"If you are not a liberal at 20, you have no heart. If you are not a conservative at 40, you have no brain." That's what former British Prime Minister Winston Churchill once said, anyway. He was right. 

20才までに自由主義者でなければ、情熱が足りない。
40才までに保守主義者出なければ、知能が足りない。 

 さらに、いろいろ調べてみると、どうもチャーチルが言ったというのは眉唾らしく、しかも似たような表現をいろんな時代のいろんな人が「言った」とされているみたいだ。

こことか

北の国から猫と二人で想う事 livedoor版:チャーチルの引用文

とか、あるいは

notebook: ウィンストン・チャーチル - Wikipedia

によると

チャーチルが「20歳までに左翼に傾倒しない者は情熱が足りない。20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が足りない」と発言したという事が巷間に伝わっているが、これは誤った情報であり、チャーチルがこのような発言をしたという公式文書などは存在しないことが指摘されている[6]。 同じイギリスの首相であるディズレーリの発言「16歳で自由党員にあらざる者は、心を持たぬ。60歳で保守党員にあらざる者は、頭を持たぬ」が上記の言葉の元となったともいう説もあるが、この「名言」には年齢の部分などにさまざまな異種があると同時に、誰が言ったかについても明確な根拠がなく、出典は不明である。ディズレーリの他にもジョージ・バーナード・ショー、アリスティード・ブリアン、ウッドロー・ウィルソンオットー・フォン・ビスマルク、ジョルジュ・クレマンソー、フランソワ・ギゾー、バートランド・ラッセル、デイヴィッド・ロイド=ジョージといった大物の発言に擬せられたことがある 

 などなど。

でも、結局「20歳までに左翼に〜」が一番メジャーになってしまったのは、それが一番人々の気分にピタリとハマって、気に入った人が多かったからなのかもしれない。

さらにそれを言ったのがウィンストン・チャーチルとなれば、ちょっと知的っぽく感じられるし。

ちなみに、明日が日本ダービーの日だというのにこういうことを書くのは無粋で申し訳ないのだが、上記サイトによると

また、競馬関連の名言としてよく引き合いに出される「ダービー馬のオーナーになることは、一国の宰相になるより難しい」という発言も出典がなく、現在では作り話とされている。この言葉は本国であるはずのイギリスではほとんど知られておらず、競馬ライターの高崎武大は著書の中で、自らが創作したとする元JRA職員の証言を載せている。 

ということらしい。

へえー。

この格言を作った人も「チャーチルが言ったっていうと、説得力が増すからチャーチルでいこう!」って 思ったのかもしれない。

チャーチルの格言は、出典を疑え」

というチャーチルの法則を思いついたのだが、どうだろうか。

舞の海週刊金曜日

で、「20歳を過ぎて左翼に傾倒している」人がやらかしてしまったというお話。

元ニュースがこちら。

週刊金曜日ニュース» ブログアーカイブ » “昭和天皇万歳”集会で――舞の海氏が排外発言

昭和天皇と大相撲」と題し“記念講演”をした舞の海秀平氏が「外国人力士が強くなり過ぎ、相撲を見なくなる人が多くなった。NHK解説では言えないが、蒙古襲来だ。外国人力士を排除したらいいと言う人がいる」と語ると、参加者から拍手が湧いた。“日の丸”旗を手にした男性が「頑張れよ」と叫び、会場は排外主義的空気が顕著になった。さらに舞の海氏が「天覧相撲の再開が必要だ。日本に天皇がいたからこそ、大相撲は生き延びてこられた。天皇という大きな懐の中で生かされていると感じる。皇室の安泰を」と結ぶと、大拍手が起こっていた。

で、最初、このニュースを元に排外主義を批判した人が、後で実際に舞の海の講演を見て、週刊金曜日の記事が歪曲だったことを知り、お詫びと訂正をしたという記事がこちら。

「排外発言」とは正反対だった「舞の海氏の講演」(前回エントリのお詫びと訂正) | 冷泉彰彦 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

結論から言えば、舞の海氏の発言は報じられていたのとは180度異なり、むしろモンゴル出身力士をはじめとした外国人力士へのリスペクトに溢れたものでした。まずもって、お詫びと共に訂正をさせていただきます。

ちなみに、元講演も動画で見ることができます。


舞の海秀平さんが相撲漫談@昭和の日お祝いする集い - YouTube

舞の海の講演は42分ごろから。

問題発言の該当箇所は1:03:30ごろから。

私も一次情報が明示されている以上、元発言も知らずに週刊金曜日を批判してはいけないと思い、舞の海の講演を全部聞いたのだが、実際に聞くと確かに週刊金曜日のニュースの内容とは180度逆の内容で、彼はむしろ「外国人力士が今の相撲界を支えている」とまで言っているのだから、週刊金曜日の永野厚男という教育ライター()には、呆れるやら腹が立つやら。

講演自体は、相撲の歴史や現在の相撲界、外国人力士のことなどを、曙との対戦のエピソードも交えてわかりやすく、ユーモラスに語る非常におもしろい内容(相撲に詳しくなくても楽しめる内容なので、オススメです)。

これを自分達の政治的主張に都合のいいように歪曲して、記事にしてしまうなんて、本当にどうかしている。

まだ某宗教団体の方が「これは守護霊が語っています」と注釈をつけている分だけ、週刊金曜日よりも誠実と言っても良いレベル。

こんなことしていたら「20歳を過ぎて左翼に傾倒している者は知能が足りない」と言われてもしかたないよねえ。

つまりはそういうことだ。