高島俊男「中国の大盗賊・完全版」

読了。

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

中国の大盗賊・完全版 (講談社現代新書)

非常に良かった。

中国の創業の皇帝や共産党の本質をこれだけ説得力を持って読み解いてくれる本もなかなかない。

「盗賊」というと穏やかではないが、この本で使われる「中国の盗賊」の定義は

1,官以外の

2,武装した

3,実力で要求を通そうとする

4,集団

であって、日本語の「盗賊」、いわゆる盗人のことではない。

要するに、この定義に従っていれば、最終的に天下を取って王朝を築こうが、単なる山賊くずれだろうが、それは結果論であって、その過程においてはそれほど差がないということなのだろう。

ついでにいえば、官軍にしたところで、盗賊退治のドサクサにしっかり村で略奪をしていたみたいだし、水滸伝の話の中でもあったように、盗賊を官軍にスカウトすることや、その逆もよくあったようで、まさに「勝てば官軍」を地でいく国だったようだ。

で、ここで具体的に挙げられている大盗賊は

1,漢の高祖の劉邦

2,明の太祖の朱元璋

3,明末の李自成

4,清の太平天国の洪秀全

5,中国共産党毛沢東

で、これらの人物の生い立ちから勢力拡大に至る過程を紹介しながら、今に続く中国という国を読み解いていくような構成になっている。

この五人、共通点は、最下層から成り上がり、そのまま皇帝(かその一歩手前)まで上り詰めた人物というところなのだが、同じ成り上がりでも日本の豊臣秀吉のようなサラリーマン的成り上がりとはスケールが違う。

「皇帝毛沢東中国共産党」と、「皇帝鄧小平の中国共産党」は別の王朝、という大胆な見方も、「社会主義国家中国」としてこの国を考えるよりもよほどしっくりいく。

この本を読んで思い出したのが、「三国演義」の劉備

彼なども、その半生を鑑みてみれば、典型的な大盗賊であって、「三国演義」では物語上、善玉なのでもちろんそんな描写はないが、あれだけ中国のあちこちを軍団を率いて流浪していたのだから、その間、食料を確保するためにあちこちで略奪行為をしていても何の不思議もない。

荊州を南下する曹操から逃れる際に、その土地の人たちが劉備についていったのも、なにも劉備の人徳を慕ったわけではなくて、劉備の盗賊団に所属してでも、そこから逃げないと、残っていると曹操(徐州で住民大虐殺の実績あり)になにをされるかわかったもんじゃないというだけの話だったんだろうなあ、などいろいろ想像した。

そんなこんなで、実に面白い本だった。

つまりはそういうことだ。