遠藤正敬「犬神家の戸籍 「血」と「家」の近代日本」

 年末です。

 今年のトピックとして、外せないのが、眞子さんの結婚、皇籍離脱だと思います。

 そして、夫婦別姓制度に関する議論が盛り上がったのも記憶に新しいです。

 これらの出来事をきっかけに、日本の家族制度について、もっと知りたくなったという奇特なあなた、そんなあなたにぴったりな本があります。

 

犬神家の戸籍 「血」と「家」の近代日本

 日本を代表する家族の一つ、犬神ファミリー。

 ちょうど最近、映画とドラマで「犬神家の一族」を見たところだったのもあり、読んでみました。

 なんかいかにもよくある漫画やアニメの謎本(古くは「磯野家の謎」とかそういうやつ)っぽいんですが、副題にあるように、小説に出てくる犬神家をモデルに、戦後の日本の戸籍制度について考察するという、学者さんの書いた少し堅めの本です。

 

 普段はあまり意識することのない戸籍について、明治民法と戦後の現民法との違いや、中国と日本の「血」と「家」に関する考え方の違い、戦争で戸籍が一部消失したことによる混乱(こちらは、松本清張の「砂の器」でネタになっていますね)なんかも含めていろいろわかり、おもしろいので、ミステリファンや、犬神家の一族好きにはおすすめです。

 戸籍上の記載における「私生児」と「庶子」の違いなんて、この本で初めて知りましたよ。

 

 他にも、民法を勉強したことがある人ならご存知だと思うのですが、相続には「遺留分」ってのがあります。

 この作品に限らずミステリを読んでいるとたまに「誰それに遺産の全てを与える、他のやつには一切やらん」みたいな遺言があったりするんですけれど、本来相続する権利がある人間の取り分をゼロにする遺言って、たとえ遺言書があろうと、認められないはずです。

 

 この作品の場合は、時代が戦後すぐの話なので、そのころはそういう制度はなかったという設定かな?と勝手に想像していたのですが、明治民法でもすでに遺留分の概念は存在していたのがこの本をよんでわかりました。

 「犬神家の一族」では、弁護士も立ち会いのもと、遺言が公開されているので、弁護士がそれを知らないはずはなく、本来なら、本作のような遺言を巡る争いは、設定上、成り立ちません。

 まあ、それだと話が盛り上がらないんで、フィクションだし、いいんですけれどね。

 

 考えてみれば、横溝正史の諸作ぐらい、婚外子や内縁の妻、養子などイレギュラーな家族構成の例が豊富にある作品はそうそうないわけで、戸籍や相続に関する説明の例に横溝作品を使うのは、結構ありのような気がしてきました。