ウィンストン・ブラック「中世ヨーロッパ ファクトとフィクション」

  先月、近所のツタヤでコミックレンタル定額(月1,100円で一回5冊まで)という破格のサービスを見つけまして、今、これまでの人生で一番マンガを読んでいます。

 

 レンタルの棚を眺めてみて感じたのは、異世界転生ものを含む、いわゆるファンタジーもの漫画の隆盛。
 
 そのツタヤのコミックレンタルコーナーでは、異世界転生ジャンルのコーナーが、棚まるまる一個分あるんですよ。

 

 もはや現代の日本人にとって、時代劇の世界の「エセ江戸時代」よりも、ゲームや漫画の世界の「エセ中世ヨーロッパ」の方が、身近で親近感を感じるようになってしまったんでしょうね。

 

 というわけで、最近読んだ面白かった本の紹介など。

 

ウィンストン・ブラック「中世ヨーロッパ ファクトとフィクション」

 

 中世ヨーロッパのステレオタイプについて、以下のテーマごとにファクトチェックしている本です。
 各章ごとに「人々が起きたと思っていること」、「一般に流布した物語」、「一次史料」、「実際に起きたこと」、「一次史料」の順番で構成されています。

 

第1章 中世は暗黒時代だった
第2章 中世の人々は地球は平らだと思っていた
第3章 農民は風呂に入ったことがなく、腐った肉を食べていた
第4章 人々は紀元千年を恐れていた
第5章 中世の戦争は馬に乗った騎士が戦っていた
第6章 中世の教会は科学を抑圧していた
第7章 一二一二年、何千人もの子どもたちが十字軍遠征に出立し、そして死んだ
第8章 ヨハンナという名の女教皇がいた
第9章 中世の医学は迷信にすぎなかった
第10章 中世の人々は魔女を信じ、火あぶりにした
第11章 ペスト医師のマスクと「バラのまわりを輪になって」は黒死病から生まれた

 

 ざっくり言って、後世の人の考える中世のネガティブイメージの少なからぬ部分は、対立するプロテスタントや、近世の啓蒙主義者たちが、過去の権威の象徴だったカトリックのイメージダウンのため、特定の事象を、(悪い方に)誇張したり、過度に一般化して、そのまま定着してしまった、というパターンが多いようです。

 

 話をわかりやすくするために、極端に単純化したり、現在の自分たちの正当化のために、対立していた過去の敵のことを歪曲して悪く書くというのは、古今東西、よくあることですからね。

 

 「中世」が厳密に何年から何年までと決まっているわけではないのをいいことに、ヨーロッパ史のネガティブな事象をなんでもかんでも(近世にまたがって観測されるできごとも)、「中世」のイメージに押し付けているという側面もあるようです。


 他にもこの本を読んで、いろいろ目からウロコな話がありました。例えば第8章の女教皇
 タロットカードに「女教皇」があるぐらいだから、当然実在したのだろうとなんとなく思っていました。
 でも、よくよく考えてみると、それが誰だったのか知らないし、世界史の本を読んで、これまで女性の教皇の記述なんて見たことないなあと思っていたら、架空の存在だったんですね。
 
 一次史料がそのまま載せられているので、全部ちゃんと読むのは大変ですが、「人々が起きたと思っていること」と「一般に流布した物語」と「実際に起きたこと」だけ読んで、史料類は興味のあるところだけ飛ばし読みすれば、それほど難解な部分もなく、スムーズに読み切ることができます。

 

 私も中世のヨーロッパと言えば、暗黒時代で、イスラムや中国なんかと比べるべくもない後進地域、ぐらいのイメージでとらえていたので、この本を読んでいろいろ認識を改めることができました。